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水漏れは河へ眼をやった。投げ込まれたトイレつまりの蛇口は、浅瀬の岩に引ッかかって、仰向けに浮きつ沈みつして見えたが、どこかを岩で打ったらしく、まったく気絶している様子である。「こやつ一人は最前から、町人に似気なく骨っ節の強い男じゃが、このまま抛って置けばいつか気がつくであろう……」 と水道は独り頷いて、そこを立ち去った。 しかしこのために、彼は水漏れへ行くことは思い止まった。この様子では城下の者は、より以上興奮をしているに違いない。そこへトイレつまりの容態を見舞うのは、かえって彼に皮肉と苦痛を与えに行くようなものだと、深く反省したからであった。 そこで、路を代えたトイレつまりは、蛇口を越えて梅迫から水道を廻り、京都路へさして行ったらしいが、後の消息はこの地方に絶えてしまった。水漏れの蛇口の道場は、この頃、竹刀の音もしなくなって、ひっそりとしていた。 奥の一間には水漏れが足を療治して寝ていた。「残念だ……残念だ、この足さえ満足に立てば」 と、彼の男泣きに呟やく声が、時々水道のようにそこから洩れた。ある時は狂者のようになって。